英語で本三昧

英語の朗読を聴いて楽しんでいます。 

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トルコの中でも一番ロシアよりにある田舎町Karsでは、雪が降り続き、外界から遮断されてしまいます。
ドイツで亡命生活を送っていた詩人のKaは、記者としてこの町を訪れますが、実は学生時代の美しい友人Ipekを、妻としてドイツに連れ帰ることを渇望しています。
Kaが雪に閉じ込められ、この田舎町に滞在した数日の出来事を、彼の友人が語ります。

Snowbook.jpg





降り続ける雪の静けさと美しさが、最初から最後まで印象的です。

雪によって孤立したKarsでは、軍人による茶番劇のようなクーデターが起き、多くのイスラム教徒の学生が殺されます。
政治からイスラム教を切り離し、ヨーロッパのような近代化を目指す人々と、イスラム教を政治の中心に据えようとする人々、その間で心が揺れる多くの人々と、Kaは語り合います。

さまざまな人々の言葉を通して、トルコの人々の貧しさへの苛立ち、神への複雑な思い、ヨーロッパへの憧れと反感が、伝わってきます。

Kaは、Ipekの愛情を手に入れることが、彼の一生で一度の幸せになるチャンスだと深く信じ、心は過敏なほどに揺れ動き、痛々しいほどです。 幸福の絶頂も、絶望の底も、若者たちの唐突な死も、Kaの美しい詩も、すべて雪の中で深深と語られます。
目の前を幾重にも重なって、静かに落ちていく雪のように、多くの人の言葉が折り重なって、降り積もるような深さを感じました。

登場人物は魅力的だし、物語は面白い。 語り手が、時折前触れのように先に起きることを教えてくれる、その手法が、物語に不思議な層の重なりと緊張感を与えている。
特に、後半に入ると、その手法ゆえに、物語にぐんぐん引き付けられました。

そして、再びイスラム教と向き合う人々の物語を読んで、この宗教の難しさを改めて感じました。 トルコと言えば、EUに参加させるかどうか(イギリスの視点のニュースを見ているので、こういうトーンになる)、がこのところずっと議論の的。 イスラム教徒の国であり、国土の大部分がアジアにあり、そして貧しい、ということが、EU加入を難しくさせている。

この物語の中で大きな問題となる、イスラム女性がまとうHead Scarfは、今のトルコでも、大きな問題になっている。
在英で、英国、欧州のニュースを解説してくださるジャーナリスト、小林恭子さんのブログで、トルコ関連の記事を読んでいくと、「雪」の世界そのままじゃないですか、今でも!

髪を家族以外の男性に見せない、というコーランの解釈に従うかどうかかという個人的な信仰の問題が、政治的なアイデンティティーになっているのが不幸。 トルコの若い女性たちが、自らの信仰心と、まわりの家族や大人の思惑と、政治的な状況と、若い仲間たちの熱い議論と、そして愛する男性の考えと・・・たくさんのことに心をゆらす、その気持ちが、この物語でちょっとだけわかったような気がした。

この作品がノーベル賞受賞を受けたことに、拍手! 深い文学性と、魅力的な物語の中に、トルコの葛藤をよく描いている。 素直に面白い物語だと思ったけど、90年台にいたるまでのトルコの近代史、この時代のロシアやイランの動きなど、不勉強が多くて、物語の冒頭では戸惑いました。(小林さんのページを最初に読んでおけばよかった?)

今回私は、20時間弱のAudio Bookを聞きながら、時々本を見ました。 

Snow audio
Narator: John Lee
Publisher: Random House Audio, 2007
Length: 18 hours and 32 min.

読み手は、静かで深い声の男性、なかなかよかった。いつものことながら、固有名詞が印象的に響き、物語の世界をより深く味わえるような気がしました。
ただし、20時間弱というのは、けっこう長かった。 ほぼ、2週間かかりました。
考えてみればこれはもともとはトルコ語の物語、何も英語で読む(聴く)必要がなかったのかもしれないけど、英語で淡々と語られる雰囲気が、物語によくあっていると思った。

この本を読みたい!と思ったのは、リウマチばあちゃんさんの、「絶対お薦め」という、この記事。ありがとうございました。

彼のこの前の作品は、トルコの細密画家の物語、評判がよかったらしいので、これもいつか読んでみたい。

聞き終わって、Karsはどこかな、とGoogleマップで調べるとイラクのちょっと北、黒海の近く、トルコでもヨーロッパから一番はなれた地域の、小さい町でした。
ズーム・アップしていくと、ひなびたKarsの町並みの家の一軒一軒、駅の前の丸いロータリーなどが、航空写真で見られてしまうのだから、すごい時代になったもんだ。

このページの、矢印のやや右上のKarsの町をどんどんズームアップします。 この町の周りの地形も見られて興味深い。

コメント

私もトルコのことはよく知らなくて、アタテュルク(と読むのかな?)という名がやたら出てくるのに、どんな人なのか全く知りませんでした。共和国建国の父だったのですね。読むにつれて分かったのだけれど、こういう事を知っていて読むのと、知らずに読むのでは、理解度が違ってきますよね。

私の英会話の先生(カナダ人宣教師)にこの本について話した時に、Karsはグルジアやアルメニアとの国境近くの町だと説明したら、真っ先に出てきた言葉が、「トルコはアルメニア人を虐殺した歴史がある」、と言う言葉でした。
トルコ政府はこれを認めていないのです。オルハン・パムクは虐殺があったと発言して、トルコ政府から訴えられたのです。ノーベル賞を取ってからその訴えは取り下げられたようですけれど。
この年で恥ずかしいのですけれど、世界の歴史や民族間の紛争など知らないことばかりで、小説を読むことは知識を増やす事だ、と改めて思っています。

リウマチばあちゃんさん、

私も同じように、アタチュルクって誰だろう?と思いながら最初は聴いていました。トルコで、スカーフが学校で禁じらている、というのもピンとこなかったし。
おっしゃる通り、知らない国の物語を読むと、その国が急に身近に感じられ、聞き流していた国際ニュースが突然意味をもって感じられる経験を、私も何度もしました。 
そういう意味では、日本の小説が英語に翻訳されるのも、とても意味の深いことですね。村上さんとか、吉本さんとか、もっともっと、国際的に活躍していただきたいです。だって、イギリスでは日本が中国の一部だと思っている人、けっこう多いし、日本、韓国、中国にそれぞれ違うイメージをもっている人は、かなり少ないような気がします。

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Dill

Author:Dill
イギリスのロンドン郊外に住んでいます。 
本は大好き。読む本がなくなると落ち着きません。
とうとうまわりに日本語の新しい本がなくなってしまったので、英語の本を楽しみたいと思っています。

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