英語で本三昧

英語の朗読を聴いて楽しんでいます。 

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by Kazuo Ishiguro


しばらく英語の本を読まずにすごしたので、久しぶりに読むには、読みやすくて、しかもぐんぐん引き付けられる独特の力のある本がいいな、と思って選びました。 Kazuo Ishiguroのデビュー作、25年前の本です。



Etsukoは、イギリスの田舎の家に一人で住む、日本で生まれ育った女性です。 長女を自殺によって亡くしたEtsukoの家に、下の娘のNikiが泊まりに来て、娘と母は、淡々と言葉少なく、昔と今について語ります、 その中で、Etsukoは、はるか昔、まだ日本人の夫と長崎に住んでいた頃、ほんのひと夏だけの付き合いだったSachikoとその娘のMarikoのことを思い出します。


Etsukoの記憶に蘇る長崎は、原爆投下から数年、いつの間にか街に活気が蘇り、人々の生活もようやく安定したころです。 コンクリート作りのこじんまりしてはいても新しい息吹を感じるアパートに、夫と住むEtsukoは、初めての子どもも授かりました。


古い昭和の映画、たとえば小津監督の映画を彷彿とさせる、質素で押さえた中に、凛とした美しさをもつEtsukoの生活ですが、やがて、Etsukoも含め、ほとんどの登場人物が戦争で大きなものを失い、その絶望的な闇の中から、自分を奮い立たせて前を向いて生きていこうとしていることがわかります。


けれども、前を向こうともがけばもがくほど、行き先がみつけられず、危うい選択をしようとしているのがSachikoです。Etsukoは、Sachikoと不思議なかかわり方をしながら、彼女の生き方を静かに見つめています。


それから20年以上たった今、Etsukoは長崎を遠く離れ、イギリスの田舎に一人暮らしで、彼女を英国につれてきたイギリス人の夫の姿は、彼女のそばにはもうありません。 長女を自殺で失い、次女もロンドンに住む彼女は、これから、イギリスで一人どう生きていくのか、失ったものを嘆くのではなく、前を向いて生きていくのか、この小説では、読者の疑問には何も答えてくれません。
ただ、相変わらず静かに押さえながら、潔さをもつEtsukoは、ロンドンに帰る娘のNikiを、田舎の家の門で、穏やかに見送ります。


もイギリスに借り住まいしている日本人であるだけなおさら、Etsukoの孤独感がひしひしと迫って感じられました。 言葉もNativeとは程遠く、心をわかちあうイギリス人の友人もそば見えないEtsukoが、多くを失ってもなおどう生きていこうとするのか、彼女のこれからに思いが重なりました。 私だったら、耐えられるだろうか、と自分に問いかけずにはいられませんでした。


Ishiguroは相変わらず、読みやすい端正な英語で、鮮やかに場面を描き、まるで反物をいくつも広げたように、鮮明なイメージが残ります。でも実は、物語のはじめと終わりで、明かされる事実は殆ど変わりません。 後の作品のWhen we were orphansNever Let Me Goのような謎解きはほとんどなく、遠い昔の長崎と、今の英国の間に何があったのか、描かれた場面を思い浮かべながら、読者が自分で謎をたどるばかりです。 答えはどこにもないだけに、読んだあと、いつまでも後を引いて考えてしまいます。


これが処女作とは、うまいし、彼らしさがすでに引き立っています。


主人公は日本女性、舞台もほとんど日本なので、英語で読むのに違和感があるかと思ったのですが、私は不思議に気になりませんでした。 むしろ、日本語の会話を表す英語に、どこか日本語の訛りの匂いがするような気がしました。 Ishiguroの達者な英語力で、日本語の匂いを作り上げたのかな、と思いました。

コメント

Etsukoさんの置かれている状況を読みながら、なんだか他人事に思えなくて、身につまされます。ときどき、ふっと5年後、10年後、自分はどこでどんな風に暮らしているんだろうと考えることがあります。これがKazuo Ishiguroのデビュー作なんですね。何が彼にこのようなテーマを書かせようと思ったのか、興味深いです。いつか、たぶん、自分の置かれている状況を思いながら、この本を読む機会がありそうな気がします。ご紹介どうもありがとうございました。

michiさん、
私の頭の中でどんどん魅力的なイメージの広がっているご主人のいるmichiさんが、何をおっしゃるのですか! 
とは言え、昨日久しぶりにアメリカに住む学生時代の同級生に会ったら、同じような話題が出ました。アメリカ人のご主人を持つ彼女、経済的にはまったく分かれているそうで、自分のRetirement後の資金は自分で稼がなくちゃいけない、とがんばっていました。 とても刺激を受けました。

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Dill

Author:Dill
イギリスのロンドン郊外に住んでいます。 
本は大好き。読む本がなくなると落ち着きません。
とうとうまわりに日本語の新しい本がなくなってしまったので、英語の本を楽しみたいと思っています。

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